あらぬ方向へ曲げてしまう力

2つの棒があります。一つは端に丸みがあり、もう一つは端が凹んでいます。この棒の端を合わせて押し合ってみます。お互いの棒が一直線上にあり、力が同じ大きさでお互いに向かいあっている場合は、この棒は動きません。しかし、同じ大きさの力であっても力をかける場所や方向性が違うと棒は動いてしまいます。例えば、下の図のように端が丸い方の棒を少し上から下方向にして押し合うと、棒が合わさっているところでは下向きにずれてしまいます。 膝関節というのは先の例のように長い大腿骨と脛骨に挟まれた関節です。股関節のソケットのように膝関節はカバーされておらず、構造的に不安定な関節です。そのため、半月板や靭帯などのサポートによって安定性を得ています。膝関節には大腿骨より上、つまり身体のほとんどの体重からの力がかかっていることもあり、股関節と足関節に挟まれた膝関節は靭帯損傷が起こったり、変形性関節症が起こったりと痛みや障害が起こりやすい部位です。 膝関節を180度よりも伸ばしすぎて(=過伸展)しまう、反張膝という状態があります。関節が柔らかい人で起こりやすい症状で、”膝を伸ばしすぎないように”とよく注意されているのを耳にします。しかし、膝を伸ばしすぎるのが意図的でないためになかなか修正できない場合が多いです。膝関節を安定化させてくれる筋肉のトレーニングをしても改善しないということもあるかもしれません。一つのケースとして考えられるのは、上半身から骨盤までの重さを脚へと伝えている部分である大腿骨頭の位置が膝関節より前にある状態。最初の棒の例のように体重による力が膝関節において大腿骨を後ろ方向へ押してしまう力として働くことで反張膝を作ってしまいます。 (図は『カパンジー機能解剖学』より) 反張膝は膝関節における前後方向での問題の一つの例でしたが、左右方向でも同じような状況が考えられます。私たちが地球上で生活をするのであれば常に身体の重さによる重力の力が地面方向へと働いています。その力をどのように支えているのか、そしてどのような力が関節に対して働いているのか。それを調整することによって不安定な膝関節も安定して動きやすくなります。

あらぬ方向へ曲げてしまう力2018-05-08T00:02:25+09:00

骨の中の梁

骨梁(こつりょう)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。骨は硬いものというイメージがあるかもしれませんが、骨の断面を見てみると、内部はスポンジのようになっています。このスポンジのような網目状になっている部分は海綿骨と呼ばれ、また骨の表面にある密度の高い部分は緻密骨と呼ばれています。このように骨は密度を変えることで強さを維持しながらも軽さを保つことができるような工夫がされています。 (図は『カパンジー機能解剖学』より) 股関節を作る寛骨と大腿骨を見てみると、このような骨梁がいくつも隠れています。仙骨から股関節に向かっていくつか線が伸びているのが見えるでしょう。そして大腿骨の中にも骨梁の線が見えます。体重などの重さがかかるような部分では、力学的な負荷に耐えられるようにその方向に応じて骨の”梁(はり)”を作って支えているのです。つまり、重さや重力の力がかかる部分は自然と適応して組織を強くしてくれています。 逆に適切な負荷がかからなければ骨も弱くなってしまいます。寝たきりになると骨が脆くなるのはそのためです。宇宙飛行士が無重力空間で生活をすると骨密度が下がるということは良く知られています。骨密度や筋肉を維持するために、彼らは毎日2時間半の運動をしているそうです。骨を丈夫にするためには適度な負荷がかかることが必要となります。 股関節や膝関節が”すり減って”骨棘(こつきょく)ができることがあります。すり減るのは体重が適切に支えられていないために起こることが多く、骨棘を作ることで関節は接地面積を増やして対応をしようとしていると考えることもできます。関節をサポートするための筋力をつけることは大切かもしれませんが、体重がどのように支えられているのかをもう一度チェックすることも必要かもしれません。姿勢は見た目だけではなく、物理的な効率性にも関わっています。

骨の中の梁2018-05-08T00:03:01+09:00

様々な形のエネルギー

身の回りには様々な形のエネルギーがあります。電気や熱のエネルギーだけでなく、物を動かしてくれる運動エネルギーのような力学的エネルギーもあります。高いところにある物は重力によって落下しますが、これも力学的エネルギーの1つで位置エネルギーと呼ばれています。糸に吊るされた重りをある高さで離すと振り子のように揺れが繰りかえされるのは位置エネルギーと運動エネルギーが転換されることを利用しています。 ばねによる弾性エネルギーも位置エネルギーの1つと考えられています。ばねに重りをつけた状態でばねを引き延ばして手を離すと、振り子のような運動が起こります。これはばねが伸ばされたことによって蓄えらた弾性エネルギーと運動エネルギーの転換を使っています。 カンガルーがぴょんぴょんと跳び続けても疲れないのは、この弾性エネルギーを上手に使っているからです(こちらの記事参照)。つまり、筋肉によるエネルギーだけではなく、筋肉を骨につないでいる腱がわずかに伸ばされることによって生まれる弾性エネルギーを使うことで省エネができるのです。 身体には筋肉と骨だけではなく、腱や靭帯、筋膜などの結合組織があります。能動的に動かす筋肉と異なり、結合組織は受動的に動かされます。つまり、結合組織は脳が指令を出して伸ばしたり縮まったりするのではなく、筋肉や関節など周囲が動くことによって結合組織は動かされます。化学エネルギーがたくさん必要な筋肉ばかりを使って動くのではなく、腱などの結合組織からの弾性エネルギーを使って動きをより効率的にしていきましょう。

様々な形のエネルギー2018-04-17T09:33:03+09:00

身体の中のてこの原理

  てこの原理というと、 重たい物体を小さな力で持ち上げることができる、このような図を思い浮かべるでしょう。シーソーだけではなく、ハサミやくぎ抜きなど、てこの原理を使った物は身近に多くあります。シーソーのようなてこの場合、支点から作用点(重り)までの距離が短く、支点から力点(力を加える点)までの距離が長い方が力学的に有利となります。 てこは物だけではなく、わたし達の身体の中にもあります。首と頭をつなぐ関節もその1つの例。この関節を支点として、首の後ろの筋肉が力点、頭の重さが作用点(重り)と考えることができます。先のてこの例のように、頭の重さが支点の近くにあれば力学的には少ない力で支えることができますが、頭が前へ移動したような場合、同じ頭の重さを支えるためにより多くの力が必要となります。 スマホを使った時に起こるような”ストレートネック”は首に悪いということが良く言われるようになりました。良い姿勢であれば頚椎にかかる力は4~5kgであるのに対し、首が15度傾いた状態ではそれが2倍~3倍、45度も傾くと5倍近くになるというデータがあります。てこの原理を元にして考えてみると、負荷が大きくなりそうだということは容易に予測ができます。 わたし達の身体には他の物質、物体と同じように、様々な力学的な力が常にかかっています。今日から身体運動学のクラスが始まり今日は学生の頃に習ったような力学の復習をしました。身体の動きを理解しようとした時に、このような物理的な要素も含めて考えることで動きの分析に役立つのではないかと思います。8月まで長い期間ですが、楽しい学びの時間になるように頑張りたいと思います。

身体の中のてこの原理2018-04-10T00:04:30+09:00

身体運動学

この2つのモデル。 身体の関節の角度や胴体と脚の位置関係などは同じ状態です。しかしわたし達は地球上で生活をしているため、この2つの間には、単にモデルを90度回転したという以上の違いがあります。 1つ目のモデルは背中が床についています。それに対し2つ目はおしりが床についています。背中が床についているモデルの方がサポートしている面積が広いために安定します。寝ている時よりも立っている方が筋肉の働きが大きくなるのは想像できるでしょう。これには床に接地してサポートしている面積の広さが関わっています。 ピラティスのリフォーマーでは仰向けになって行う足・脚のワークも、チェアというイクイップメントでは座って行うことができます。座っている状態ではおしりの部分しか床についていないので身体を安定させるためには自分の身体の中でのワークがより必要となります。 わたし達の日常生活での動きを考えた時に、座っていたり立っていたり歩いたりと、身体が起き上がった(地面に対して垂直になった)状態での動きがほとんどです。チェアを使ったエクササイズに関して、身体のどの部分で支えているのか、そして身体に対して重力がどのような方向にかかっているのかを考えてみると、座位や立位で行うことが多いチェアのエクササイズは、実際の日常生活での動きに直接関係しているものが多くあります。 エクササイズを行う時の腕や脚の位置をどのように選択するか。座ってエクササイズを行うのと寝て行うのでは、どのような違いが生まれるのか。身体運動学のクラスでは、各関節に関わる運動学だけではなく、運動を行う身体に関わる力学的な視点からも運動について学んでいきます。

身体運動学2018-03-06T23:51:07+09:00

少しずつ再開します

立春が過ぎて暦の上では春。梅の花も少しずつ開いて街が色づいてきました。 こちらのブログはしばらくお休みをしていましたが、大学院の修士論文の提出や発表も終わり、ひと段落したこともあり、また少しずつ再開をしていこうと思っています。 大学院では身体感覚、特に関節の位置に関する感覚についての研究を行っていました。臨床や日々のセッションの中で感じていた疑問に一つ示唆を与えてくれるものとなりました。こちらについてはまた時期が来たらお話できればと思います。 また、2月よりknitido+のアンバサダーをさせていただくことになりました。knitido+の靴下は機能的に考えられ、丁寧に作られた5本指靴下です。この物を通してwellnessが広がっていくことを願っています。3月に行われる展示会の後、3月17日(土)の午前に足に関するワークショップを担当させていただきます。午後にはヨガ・ピラティストレーナーの堀井祐介さんとジョギングトレーナーの金城みどりさんのワークショップも開催されます。素敵なブランドサイトと合わせ、ぜひチェックしてみてください。   これまで一旦お休みさせていただいていて新規の方のご予約やワークショップなどの講師のご依頼も再開致しますので、ご入用の方はご連絡ください。

少しずつ再開します2018-02-26T23:54:45+09:00
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